物流・運送業界の現状とドローン実用化の課題

運送業界とドローン


 

物流・運送業は私たちの生活に必要な産業で、ドローンの活用実験が既に多く行われており、将来的にドローンの活用が期待される産業でもあります。

今回は、物流・運送業界の現状と、ドローンの活用例、運送ドローンの実用化に必要な機能と、実用化に向けての課題についてまとめています。

物流・運送業界の現状

私たちが日々の生活で使っている衣料品や食品、医薬品、雑貨、家電などの生活必需品や、その他様々な製品は製造後、運送業者などによって企業や個人に送られたり、倉庫などに送られるなどしています。また、近年のECサイトの台頭もあり、運送業界はより生活に密着した産業となっています。

まずは、そんな運送業界の市場規模や、課題についてです。

物流・運送業界の市場規模

日本の運送業界の市場規模は、約22兆円となっています。海上運送や航空運送を除いて陸上運送のみに絞ると、約15兆円となります。

下の表では、国土交通省の統計による物流業界の営業収入をまとめています。

国土交通省HPより抜粋
  営業収入
トラック運送業者 14兆3685億
 内航海運業 8998億円
 外航海運業 4兆3337億円
 港湾運送業 884億円
 外航利用運送事業 3185億円
 JR貨物 1312億円
 鉄道利用運送事業 2529億円
 航空貨物運送事業 2684億円
 航空利用運送事業 5564億円
合計21兆2178億円

トラックと船による物流が営業収入の多くを占めていることがわかります。船による物流は、海外との取引が主になっていますので、国内の物流に関してはトラック運送が大半だということになります。

物流・運送業界の課題

競争過多

トラック運送業は、1990年以降の規制緩和や価格の自由化により、多くの業者が参入してきました。運送業界はサービス内容等での他社との差別化が難しく、激しい価格競争がされることとなり、低価格化が進められてきました。しかし、トラック運送業の原価は、人件費と燃料費で約70%を占めており、コストダウンをするには人件費の削減をせざるを得ない状況になってしまっています。

また、Amazonや楽天などのECサイトも運送業への参入を予定しており、さらに競争が激化する可能性もあります。

労働力不足

かつてはトラックドライバーは稼げる職業の1つでしたが、人件費の削減が進んだこともあって給料は低下し、安い給料で過酷なドライバーに就こうと考える人も減少してしまいました。そのため、増え続ける荷物に対して、求人倍率が高くなっておりドライバー数の減少が進んでしまっています。

さらには、ドライバーの15%が60歳以上になっているなど、高齢化も進んでおり、労働力不足は深刻な課題となっています。

再配達の負担

再配達の問題は度々ニュース等でも取り上げられるようになりました。日本の運送業者は海外の運送業者と比べてサービスが手厚く、初回の訪問で不在であれば再配達をしてくれますが、これが運送業者にとって負担となっています。

激しい価格競争や労働力不足が問題となっている中で、Amazonや楽天などのネットショッピングでの買い物が増えたことで、荷物の小口化が進むと同時に、再配達の件数なども増え、ドライバーへの負担は増しています。IoTなどを導入して物流センター等での省力化をしたり、配送ルートの最適化を行うなどの対策はしていますが、労働力確保も含めて課題となっています。

2014年の国土交通省の調査によると、宅配便の初回で配達が完了したのは80.4%で、20%程は再配達になってしまっています。1つの再配達にかかる作業時間は、合計で0.22時間とされており、時給1000円で計算をすると、余分に220円のコストがかかってしまうことになります。運送業者にとっては、送料に対して大きなコスト負担になってしまいます。

これに対して、ECサイトや運送業者では、コンビニなどでの商品受け取りを可能にしたり、宅配ボックスの設置を推奨したり、駅などに宅配受取ロッカーを設置するなどの工夫をしていますが、再配達は宅配業界にとって大きな課題となっています。

交通渋滞

荷物の増加によってトラックの渋滞も課題となっています。例えば、東京港コンテナふ頭の外貿コンテナでは、貨物取扱個数は年々増加している上に、トラック事業者は貨物を午前中に納品することが多く、その前日の夕方にコンテナへトラックが集中し、渋滞発生の原因となっています。

離島への配達

日本には多くの離島があり、国土交通省によると、有人離島だけでも418島あるとされています。これらの離島への運送は数量が少ないこともあり、運送の効率化は困難であるためコストが多くかかってしまう天候によって運送ができなくなる状況も発生しやすいという事も、運送業界の課題として存在しています。

Point

 

  1. 運送業界の市場規模→約22兆円
  2. 運送業界の課題→①競争過多による価格競争 ②ドライバーの減少・高齢化 ③再配達コスト ④交通渋滞 ⑤離島への配達コスト

物流・運送業界でのドローン活用例

世界中の企業がドローンによる運送の計画や実験をして、技術的な障害や、法的な障害もあり、本格的な導入をしている企業はまだ多くありません。ここでは、現状どのようなドローンの活用計画や、実験などが行われているかについて、代表的なものを紹介します。

ここでは動画などはほとんど紹介していませんので、それぞれの詳しい事例や、実際の映像についてはこちらの記事でまとめています。

物流・運送でのドローン活用例
物流・運送業界のドローン活用事例

千葉県での実証実験

国家戦略特区に選ばれた千葉市では、「ドローンによる宅配サービス・セキュリティ」について、実際にサービスを事業化するための様々なテストが行われています。

東京圏国家戦略特別区域会議の下に設置された「千葉市ドローン宅配等分科会」は、千葉市、内閣府に加え、イオンリテール株式会社や楽天株式会社、NTTドコモ株式会社など民間企業も加わって組織されており、行政と民間企業が協力してドローン宅配サービスの実証実験が行われています。

現在は実証実験として、以下のような試みに成功するなどしています。

  • イオンモール幕張新都心の屋上(高さ23.4メートル)から、約150メートル離れた豊砂公園へワインボトル(720ミリリットル)を届ける
  • 高さ31.2メートルの高層マンション「ミラマール」の屋上へ、約120メートル離れた公園から市販薬を届ける
  • アプリによる商品注文後、商品をドローンに積み、稲毛海浜公園のいなげの浜から海上を通るルートを約700メートル飛行して荷物を配達する

Amazon「Prime Air」

Amazonでは、ドローンによる宅配サービスとして、ドローンを使用して30分以内に荷物を安全に届けることを目標とした「Prime Air」を2013年に発表し、2015年の実用化を目標としました。その後、実験・開発を続けて、2016年にはイギリスのケンブリッジで初配達に成功し、2017年にはアメリカカリフォルニア州で、アメリカでの「Prime Air」による初配達に成功しています。

本格的な実用化には至っていませんが、イギリスでは「プライベートトライアル」という形でテスト運用が始まっています。

We’re excited about Prime Air — a delivery system from Amazon designed to safely get packages to customers in 30 minutes or less using unmanned aerial vehicles, also called drones. Prime Air has great potential to enhance the services we already provide to millions of customers by providing rapid parcel delivery that will also increase the overall safety and efficiency of the transportation system.

Amazon Prime Air 公式HP

楽天「そら楽」

楽天でも、ドローンによる配達サービスの計画は実行されており、2016年には千葉県のゴルフ場内でゴルフプレイヤー向けのドローンによる配達を提供しました。また、ローソンと協業して福島県南相馬市で、週一回のドローンによる商品配送サービスを開始しました。また、今治市で楽天のドローンを用いて離島地域における物資輸送や、千葉市ではLTEのネットワークを利用しての遠隔操作による配送などの実証実験を、他企業や地方自治体などと連携して行っています。

下の動画は千葉県のゴルフ場で提供された「そら楽」の映像です。

他にも、AirMap社と合弁会社「楽天AirMap」を立ち上げるなど、ドローン事業に積極的に取り組んでいます。

「ドローン」という新しいテクノロジーの誕生により、
今まで近いようで遠かった「そら」がとても身近な存在に変わろうとしています。
楽天は、この「そら」に新たな革命を起こします。
いつでも、どこでも、あなたの頼んだものが圧倒的に早く届く。
テクノロジーをこれまで以上に進化させ、より良い社会の実現を目指します。

楽天ドローン 公式HP

ドイツ DHL社

DHL社はドイツの大手運送会社で、主に航空機を利用した国際宅配便サービスを提供しており、早い時期からドローンによる配達に取り組んでいる企業です。(公式HP

2014年には北海沖にある人口2000人のユイスト島への医薬品の配達テストを行い、2016年には標高1200メートルの山岳地帯で100回以上の配達に成功しています。今の所は、従来の交通手段では配達困難な地域へのドローン配達に力を入れているようです。

 

スイス Matternet社

Matternet社は無人物流ネットワーク構築を主な事業としたアメリカの会社です。

Make access to goods as frictionless and universal as access to information.

Our products enable organizations around the world to build and operate drone logistics networks for transporting goods on demand, through the air, at a fraction of the time, cost and energy of any other transportation method used today.

Our Mission-Matternet 公式HP

医療関連の荷物を車両で運搬すると、渋滞などで緊急の検査に間に合わないこともあり、人命にかかわりますので、2017年3月にスイス郵便とMatternet社は共同で、南スイスの都市ルガーノにある2つの病院間のドローン配達をテストしました。同4月にはスイス連邦民間航空局からルガーノの上空飛行の認可を得ました。そして2017年10月には、ドローンによる医療器具や輸血用の血液などの輸送が本格的に実用化されました。

運送ドローン実用化に必要な機能

通常市販されているドローンは空撮用のものがほとんどであり、運送用に使えるドローンはほとんどありません。ここでは運送用ドローンに必要な機能をまとめます。

飛行時間

現在市販されているドローンの飛行時間は15分から30分程度で、DJIの「Phantom 4 Pro」で30分、「Mavic Air」で21分の飛行時間となっています。しかし、運送用と考えるとこれでは足りない場面も多いと思います。もちろん配送する距離によって必要な飛行時間は変わりますが、例えば、「Prime Air」であれば30分以内の配達ということですので、単純に考えると往復60分以上の飛行時間が必要となります。

運用スキームに応じた飛行時間を設定し、飛行時間を延ばす必要がある場合には、バッテリー容量を増加させるか、ガソリンで動くエンジンを搭載する等のカスタマイズが必要になります。

積載重量

必要な積載重量は運搬する品物の種類にもよりますが、なるべく1回の飛行でまとめて配達した方が効率もよくなりますので、ドローンの運送をするためには、ある程度の積載重量が求められます。

積載重量は多ければ多いほどいいのですが、飛行時間の確保のためにはバッテリーの重量が大きくなりますので、荷物とバッテリーの重量のバランスもとる必要があります。

耐風性能・防水性能

ドローン配送を実用化するためには、多少の悪天候であれば問題なく配達を行うことができるようにしておく必要があります。

東京、名古屋、大阪、福岡などの都市での平均風速は毎秒3メートル程度ですが、気象庁でも風速の用語として、毎秒10メートル以上の風で「やや強い風」としており、毎秒風速10メートル程の風であれば日常的な風の範囲となっています。市販されているドローンの耐風性能は毎秒5メートル程の機種がほとんどですので、毎秒風速10メートル程の風であれば配達ができるような、通常市販されているドローンよりも高い防風性能を持った機体が必要となってきます。

また、東京、名古屋、大阪、福岡などでも1年のうち100日ほどは雨が降りますので、安定して配達をするためには雨の中でも配達を行える防水性能が求められます。防水機能も市販のドローンで付いている機種はほとんどありません。

安全性

ドローンの配達にあたっては安全な飛行が最も大切ですので、自動帰還機能やフェイルセーフ機能、障害物回避機能など、安全機能や安全に運用できるシステムが必要になります。

しかし、安全な飛行に注意を払っていても、鳥との衝突など予期せぬ事態によって墜落してしまう可能性はあります。一般家庭への配達などであれば、どうしても住宅地の上空を飛行する必要が出てきますので、コントロールを失ったときにはパラシュートのような安全対策を用意しておくことも必要となってきます。

また、国土交通省では、ドローンの安全な自動離着陸の研究開発のために、民間企業の有識者や行政関係者によって組織される「物流用ドローンポート連絡会」を設置しています。

 

ドローンの遠隔運行システム

ドローンによる運送を実用化するには確実な配達が必要で、ドローンの配達状況を確認したり、ドローンへの荷物掲載、トラブル時の対応など、ある程度遠隔で操作などを行うことが可能なシステムが必要となります。

全て自動化しなければならないわけではないので、どの部分を人の手で行い、どの部分を自動化するかなどを、配送する品物の種類や数量など様々な事項を加味して、運行システムを構築していかなければなりません。

運送ドローン実用化の課題

技術面

ドローン宅配に必要な機体本体の性能としては、①長時間の飛行 ②十分な積載重量 ③耐風性能 ④防水性能 ⑤安全対策、の5つをあげましたが、これらの機能は今の技術で十分可能です。また、ドローンの遠隔運行システムについても、決まった場所間の運送ではありますが、実際にMatternet社がスイスで実用化しているように技術的には構築可能です。

もちろん向上の余地はまだまだありますが、技術面においてはドローンによる安全で確実な運送を実用化するための一定のレベルまで達していると言えます。

盗難やハッキング

ドローンの着陸などを狙って、ドローンへのいたずらや盗難がされてしまう可能性もありますので、こうした盗難などに対する対策も必要となってきます。

カスペルスキーの公式youtubeで紹介されているのですが、ドローンは1秒未満でハッキング可能なようです。これは高額なドローンでも同様とのことで、商用利用しているドローンがハッキングされ、コントロール不能になってしまうと大問題です。

商用利用するに当たっては、ソフト面とハード面の両面でドローンのセキュリティの強化が必要になります。

社会的信用

2015年国土交通省の調査によると、ドローンによる宅配サービスが開始された場合に、利用したい人と、利用したくない人は、ほとんど同じ割合となっています。やはりまだドローンによる配達は、不安を抱く人も多く、すぐに受け入れられないかもしれません。

実証実験などを安全に繰り返すことで、安全性に対する信頼を高めていき、悪質な業者などが出現しないような法整備をしていく必要があるでしょう。

地域で無人航空機による宅配サービスが開始された場合の利用意向について、利用してみてもよいとする回答が最も多く 31%となっているが、肯定的な意向の「利用してみたい・利用してみてもよい」、「どちらともいえない」、否定的な意向の「できれば利用したくない・利用したくない」に分けると、30~40%のほぼ同じ割合となっている。

ー「平成27年度物流における無人航空機の活用に係る調査実施等業務報告書」 国土交通省総合政策局物流政策課

 

事業の受け入れ

ドローン事業を開始するには自治体や住民の協力も必要になってきます。2015年国土交通省の調査によると、自治体に関しては、ドローン事業者の支援に積極的な自治体が16%で、「どちらともいえない」が77%になっています。自治体の協力は十分得られる可能性があるでしょう。

また、同じく2015年国土交通省の調査によると、住民のドローンによる事業の受け入れは、肯定的な意向が約60%で、安全面での対策や保障をしっかりと講じた上で、住民への説明があれば受け入れられやすい状況と言えます。

・事業者へのサポートについては、「十分に考えられる」と「考えられる」の合計で 16%の市
町村などが、サポートすると回答している。

・無人航空機による事業の受入れ意向は、肯定的な意向が約 60%

ー「平成27年度物流における無人航空機の活用に係る調査実施等業務報告書」 国土交通省総合政策局物流政策課

事業としての採算性

昨年10月に愛媛県今治市で離島を想定したドローンによる配達実験がありましたが、離島間での配送実験を検討していた九州のある自治体は「現状では船の方が輸送量が多く、価格も安いのでドローンのメリットを感じられない」と、結論を保留しているようです。

これはあくまで現状での話ですし、ビジネスモデルによっては十分採算がとれる可能性もありますが、現状でドローンを採用するメリットがあるのは緊急性のある物の運送と言えそうです。ドローン開発が進み基本性能が向上するにつれて、この問題は解決に向かうと思われます。

法規制

率直に言ってここが一番大きな課題になるでしょう。ドローンによる運送業を開始するには、航空法などの法規制をクリアする必要があります。

航空法は、2015年12月より無人航空機を規制対象とし、空港等の周辺(A)、150メートル以上の上空(B)、人口集中地区の上空(C)、の3つのエリアのような航空機の航行の安全に影響を及ぼすおそれのある空域や、落下した場合に地上の人などに危害を及ぼすおそれが高い空域において、無人航空機を飛行させる場合には、あらかじめ、地方航空局長の許可を受ける必要があります。また、それ以外の私有地内等であっても、自動操縦や目視範囲外での飛行などを行う場合には国土交通省の承認を得なければならないと規定されています。

運送業でドローンを用いる場合、少なくとも目視範囲外での飛行が必要となるので、飛行する場所を問わず、条件を変えての実験の度に申請が必要となったり、ドローンによる運送業を開始するに当たっても法規制が障害になってきます。

最近では、政府や自治体も協力して実証実験などを行うなど、ドローンビジネスに積極的に協力する姿勢を見せており、政府・自治体と民間企業の協力によって、今後ドローンビジネスについての法整備も進んでいく見通しです。

「物流・運送業界の現状とドローン実用化の課題」まとめ

物流・運送業界の課題から、ドローン活用の具体例、配送ドローンの実用化に向けて必要な機能と課題を述べてきました。最後にここまでの内容のまとめです。

Summary

 

  1. 物流・運送業界の課題→①競争過多による価格競争 ②ドライバーの減少・高齢化 ③再配達コスト ④交通渋滞 ⑤離島への配達コスト
  2. 物流・運送業界でのドローンの活用例→千葉県での実証実験や、Amazonや楽天などの国内外の企業によるテストや実用化が行われています。関連記事→詳しい活用事例
  3. 運送ドローン実用化に必要な機能→①長時間の飛行 ②十分な積載重量 ③耐風性能 ④防水性能 ⑤安全対策 ⑥ドローンの遠隔運行システム
  4. 運送ドローン実用化の課題→①盗難やハッキング ②利用者の社会的信用 ③住民などの事業の受け入れ ④事業としての採算性 ⑤法整備